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「保育」のお役立ちコラム

はじめてが苦手な子ども (8月)

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はじめてが苦手な子ども


 A君は、自閉症のお子さんです。
地域の療育センターの親子教室に一年通った後、3歳児クラスに入園してきましたA君はすでに小学生になっています。入園当初のA君は、大きな集団生活の中での活動に戸惑いがあったり、他児と手を繋ぐことに抵抗を示したり、暗い部屋での午睡を怖がり半日帰りを続けていたこともありました。
そして、何よりも自分のペースを崩されることや、予測のつかない関わりが苦手でした。


 特にはじめてのことが苦手というのは、一つには全く未経験な事柄でできにくいこと。
二つには、これまで似たような経験をしていたのに周りの状況が違ってできにくいということがあります。このどちらの苦手さも持つA君は、新しい環境に溶け込むためにどのような支援を受けながら苦手を克服してきたのか。A君が過ごしてきた三年間の園生活を振り返りながら考えてみたいと思います。


突然の避難訓練
 入園間もなくA君にとりましてまったく未経験であった避難訓練が行なわれました。A君は事前に何の予告もされないままに、いきなり火災を知らせる園内放送が流れたと同時に先生の誘導に従い、戸外へと避難しなければなりません。この日のA君は、クラスの子ども達の後ろに付いてスムーズに避難したかのように思われましたが、翌日から避難訓練が怖いという理由から、登園を嫌がるようになりました。


 当然のことですが、A君が避難訓練に参加するにあたり、A君に見通しを持たせるためには、事前に説明やスケジュールの提示を行なうべきであったと反省しました。A君に恐怖心を植え付けてしまったことをA君とご両親に謝罪をした上で、避難訓練がどういうものかをA君に改めて説明させてもらいました。それからA君は、また元気に登園できるようになりましたが、月に一回行なわれます避難訓練のある日は、園を休むことがA君の中での条件になってしまいました。


反省を生かして
 年中組に進級したA君は、少しずつ園生活にも慣れ、自ら避難訓練のことを口にするようになりました。今までは、時間をかけて慣れて行ってもらいたいと思っていたA君の避難訓練の参加でしたが、時期を待つだけではなくある程度支援が必要であったと気づかされ、参加する側のA君にとって、どんな避難訓練の参加が望ましいのかあれこれ考えました。

 そして出された結論は、訓練に参加させることだけにこだわらず、A君には避難の誘導はどこからどのように出されているのか、その誘導によって子ども達がどのような行動をとるのか、まずは訓練の様子を外から見てもらうことにしました。


発想の転換
 A君には事前に訓練が始まる時刻を知らせておきました。そして、訓練の始まる10分前にはA君に職員室にきてもらい、椅子に座って待ってもらいました。
「これから避難訓練が始まるのでA君はここで見ていてください」と伝え、私はマイクに向かって
「訓練です 訓練です」「火事です 火事です」「速やかに避難しましょう」と放送をします。その数秒後、二階から真剣な表情で下りてきた子ども達は、あっという間にA君の前を通り過ぎて行きました。
「さあ、次は先生も逃げるよ」「A君も一緒に行こう」と手を差し出すと何の抵抗もなくA君は、私と手を繋ぎ戸外へと避難することができました。

 


 訓練終了後に「みんな逃げていたね」「火事になったらやるんだよね」「練習だよね」と今、目の前で見ていたことを一つひとつ確認するかのように話すA君でした。この日以来、避難訓練を「怖い」と言うことがなくなったA君は、しばらくは職員室から訓練に参加をしていましたが、やがてクラスに戻り、みんなと一緒に月に一回の避難訓練に参加することが可能になりました。


続いて、これまでに似たような経験はしていたであろうに、周りの状況が違っていたためにパニックを起こした同じくA君のプール遊びの話です。


初回のプール
 A君は、クラスの子ども達20名が一度に入るプールにも何のためらいもなく入って行くことができました。ところがいきなり周囲の子ども達が水をかけ合い始め、水しぶきが容赦なくA君に降りかかります。パニック状態になったA君は、周囲の大人がどんなになだめても「出る」と言って聞きませんでした。結局、初回のプールはA君にとって苦い経験となり、以後のプール遊びに大きな影響を与える結果となってしまいました。


できそうなことから始める
 日頃からA君は、人との関わりを避けたがる様子が見られましたので、集団で入る大きなプールには無理に誘うことはせず、プールの横にビニールプールを置いてみました。プールには入らないと頑なに拒否していたA君でしたが、ビニールプールの中に水鉄砲やじょうろがあるのを見つけますと、喜んで水遊びを始めました。しかし、プールから水しぶきが飛んできますと慌ててその場を離れるA君でした。こうしてA君のプール遊びは、ビニールプールからのスタートになりました。


とびきりの笑顔
 プール遊びの経験があったにも関わらず、水しぶきがかかることに抵抗を示すA君を誰もいないプールへ誘ってみました。人との関わりを避けたがるA君が、私とたった二人で入る大きなプールには何の抵抗も示しません。水しぶきがかかるのは嫌でも自分が勝手に人に向けて水をかけるのは楽しいA君です。それはどの子も同じです。


 障害があるからとかないとかの問題として捉えるよりどれくらい受け入れる力があるかないか。人によっては受け入れる力には差があります。だからこそA君は、ゆっくり慣れることで経験を積むしかありません。


仲間が増える
 日を追うごとにA君は、一人プールでダイナミックな遊びを展開するようになりました。反面、クラスの子ども達の中には、水しぶきを避けてプール遊びも十分に楽しめず我慢をしている子どももいます。彼らにとっても水しぶきがかからない少人数のプールは、きっと楽しいに違いありません。そこで、水しぶきを嫌がる子ども達とA君が、一緒にプール遊びができるように、プールに入るグループを二組に分けてみました。A君が一人で遊ぶより、友達が傍にいることが楽しいと思えるようになるには、大きなプールの中で数人の子ども達と少しずつ関わりを深めることが大変有効でした。


 こうして苦手意識を軽減するためにA君の課題は、仲間と一緒に過ごすことを最終目的にし、一段一段の高さを低く設定してステップの数を多くしてきました。


 一年後、年長児に進級したA君の夏は、元気な子ども達と共にプ-ル遊びを楽しむことができるようになりました。相変わらず何処からともなく飛んで来る水しぶきには苦労するA君でしたが、そんな時は、自ら子ども達に背を向けて、水しぶきを避けるすべをいつの間にか身に付けていました。


 発達障害の子どもの中には体験したことをしっかり経験として蓄積させることが難しい子どもがいます。しかし、大人と一緒に体験したこと、やったことを組み合わせながら繰り返し行うことで不安を解消することができるようになります。そのためには無理をさせず、ゆっくりとスモールステップでの支援が大切であると思います。


 八月のこの時期は、どこの園でもプール遊びに興じる子ども達の歓声が響き渡っていることでしょう。
その子ども達の中にも、ひょっとするとA君のようなお子さんがいるのではないでしょうか。
そして、「○君はA君に似ている」と思われる先生がいらっしゃるのではないでしょうか。


 苦手意識を持つ子ども達が仲間と一緒にプール遊びを楽しむためには、無理をさせず、一段一段の高さを低く設定してみてはいかがでしょうか。
「一人の子どもだけに特別扱いはできない」と何処からか聞こえてきそうですが、特別なことではなく、その子どものステップを細かくしているだけのことなのです。





田倉 輝子 先生

(たくら てるこ 先生)
 
森幼児園 主任保育士

【経歴】
・横浜私立 青葉幼稚園
・池田市立 社会福祉施設 やまばと学園
・横浜市 認可保育所 森幼児園
・公益社団法人 神奈川学習障害教育研究協会 会員

障害児保育に携わること30年。
療育センターでの経験を活かし、森幼児園では統合保育を実践されております。


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2013.08.01
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