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「保育」のお役立ちコラム

障害受容をめぐって (6月)

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障害受容をめぐって


 保育の現場で難題の一つに挙げられることに保護者の障害受容があります。
子どもの気がかりな行動には発達上の課題があると親が気づいていない場合、親の理解のペ-スに合わせることなく早急に子どもの特性の理解を求め過ぎてしまうと保護者との信頼関係を失ってしまうことにもなりかねません。


 そう言う私にも覚えがあります。ずいぶん前のこと、今回取り上げるA君によく似たケ-スで早い時期に園外の相談機関を利用する方向で話しをさせていただいたところ、手がかかる子だとは思いながらも何とかしようとする家族にとりましては園外の相談機関は、かなりハ-ドルの高いところであったようです。結果、家庭保育の道を選び残念ながらうまく療育に繋がらないことがありました。

それから数年後、間もなく3歳になろうとするA君が入園して来ました。


<3歳になったA君の様子>
(1)基本的生活習慣
〇排泄については、布オムツが濡れるとオムツに手をあてて知らせるが便座に座らせようとすると大泣きをする。
〇着替えは、ズボン、パンツを履くことはできないが脱ぐことはできる。
〇食事は、3本の指でつまんで食べ、食べこぼしが多い。野菜が苦手で肉、魚を好んで食べる。苦手なものを少し食べたら好きな肉や魚が食べられることを励みに頑張ろうとする。


(2)身体、健康面
〇真似ることはできないが体操、リズムは気に入ったところでは一番近いような動きを示すことがある。
〇歩き方がぎこちない。


(3)ことば、コミュニケ-ション
〇要求については発語そのものはないが「ちょうだい」の代わりに両手を重ねたり要求が通らない時には「エ-ン」と声を出したりと身振りやサインなどで意思表示をする。


(4)対人関係、社会性
〇特定の保育士が遊びに誘うと素直に応じられる。又、できないことに手を貸すことで拒否されることはない。
〇好きな電車を一人で手に取り見たり、興味のある絵本のペ-ジをめくることを楽しむ。
〇父母が迎えに来ても喜んで駆け寄る姿は見られない。


 A君の入園当初の様子からも気がかりなお子さんであることは推察して頂けることと思います。
それではA君のお母さんはA君をどのように見ているのでしょうか。気になるところです。
しかし、今回はお母さんには早くからの園外の相談機関を勧めることは避け、まずは慎重にお母さんとどのように関わればうまく行くのかを知ることから始めました。そこで、お母さんとは時間が許す限り朝、夕の挨拶は欠かさないように心掛けました。


 ある日、A君を追いかけ回すお母さんに「大変だね」と一言声を掛けますと「何処に行ってしまうか分からないので危なくて」とお母さんの声を聞くことができました。次の日は、お母さんの方から自販機で一度飲み物を買ったら毎日、自販機のある道を通りたがると話し掛けてくれました。そして、帰路に立ち寄るス-パ-でもA君は、以前買ったことがあるものは、必要がないとお母さんは思っていてもかごの中に入れないと気が済まないと話してくれました。


 立ち話の中からもお母さんのたいへんさは、私の想像をはるかに越えるものであると理解できました。そこで、日々のA君の園での様子をノ-トに書いてお母さんに読んでもらうことにしました。読むお母さんが負担に感じないようにと、A君が新しいことに挑戦してクリアできた小さな進歩を大きく褒めるように心掛けました。時折、お母さんからの返信があります。


 ある日のノ-トに書かれていたことを一部紹介します。
「昨日は押入れの引き出しのカギをかけ忘れたため物を出してしまいパパはたいへんそうでした」
「きのう帰り道は買い物をしなかったため登園の時と同じ道で帰りました。初めていつもの道を通らなかったので座ってしまい困りました」
こうしてノ-トを読むことでお母さんがA君の対処に戸惑っていることがよく分かります。


 突然でしたが、家を購入したA君の家族は引っ越しをしました。バス通園になり増々お母さんの負担は大きくなるばかりです。この頃のお母さんはよく「言葉さえ出れば何を考えているのかが分かってあげられるのに」とA君の思いが分からず疲れているようにも見えました。後に、お母さんはバスの中で、大声を出すA君に注がれる視線がたまらなかったと言っていました。


 
 こんな時は、一人で頑張らないでご主人にも助けてもらったら、と助言をするものの「主人は仕事が忙しい」とお母さん一人が、A君を抱え込んでしまっていることが気がかりでしたがそれにも増して、入園して半年が経とうとしているのにお母さんは、A君のクラスの保護者の誰とも話しをしている様子が見られないことも気になっていた矢先のことでした。


<思いもしなかった一言>
 運動会も終わりほっと一息ついていた頃。おかあさんがA君と帰宅途中、後ろから来た年長児に「こいつ、変な奴なんだよ」と言われてしまったことに大きなショックを受けました。わが子が「変」と言われたことで動揺してしまったお母さんが、職員室に思わず駆け込んでしまった気持ちは十分に受け止めてあげたいと思いました。きっとお母さんの心の内は、A君が何かみんなと違うとは思っていたと思います。でもその言葉を自ら口にすることにためらいがあっただろうし、口にすることで何とか必死に頑張って来たお母さんの思いが一瞬にして崩れ落ちてしまいそうで怖かったのだと思います。どこかの時期で誰かが気がかりがあると伝えなければならないことであり、その役割は今まで築いて来たお母さんとの信頼関係を信じ、私が担うことにしました。


<他機関への勧め>
 A君のお母さんは、正直で率直で裏表がない人です。しかし、A君の苦手なところをお母さん自身が理解して受け止めて行くことは難しく、お母さんには専門家のフォローが必要と判断しました。そこでお母さんに保育園では、A君には職員の数を増やしているので保育の上では特に困っているわけではないことや、1対1で丁寧な対応を心掛けていることで入園時に比べればずいぶん落ち着いて来たことを伝えました。そして、今のA君の対応には、ちょっとした工夫が必要で保育園でできることには限りがあり今後、療育の専門家達に教わることが必ずA君母子にとってプラスになると思っていることを伝えました。


<療育センタ-への道>
 お母さんは数日後、療育センタ-に電話を入れましたが、すぐにでも相談に行けると思っていたのが数か月先の予約であったことに納得が行かない様子でした。行くと決めたら少しでも早くと思うお母さんの思いが感じられました。やっと決心したもののお母さんにとっての療育の道はまだまだ遠い道程でした。


<突然の選択・転園>
 思い詰めた様子のお母さんが職員室の戸をノックします。そして、たいへん言いづらそうに転園をしたいという意向を話してくれました。


<転園を希望する理由>
 お母さんは、春から年少になるA君を連れてこれから3年間バス通園することを思うと、やはり家の近所にある保育所に通わせたいと思っています。合わせて第二子の出産を考えているとなりますと、確かにA君と第二子を連れての通園は誰が考えてもたいへんです。それでも家から徒歩5分の保育所の前を通って今まで頑張って園まで通い続けてくれたお母さんに頭が下がる思いでした。本来ならばここはA君にとって転園はどうなの?と言いたいところですが、これからもA君にずっと寄り添って行かなければならないのはお母さんです。この選択があっているのか、まちがっているのかは誰にも分かりません。もし分かる時が来ても誰のせいにもできません。お母さんの選択は苦渋の選択であったことにはまちがいがないのですから。


<お母さんの不満>
 年が明けてようやく療育相談が始まりました。A君は、新学期から転園先の保育所から早期療育科に親子で週一回通うことになりました。そこでは、お母さんの仕事とセンタ-との兼ね合いを考えた上で、曜日を決めるということになっていたようです。それなのに曜日が勝手に決められたとお母さんはたいへん腹を立てていました。何曜日がいいですか?と聞いて来たのに勝手に曜日が決められていてびっくりした。担当を代えて欲しいくらいです。などと珍しく感情的な文章が書かれていました。早速、面談をとりじっくり話しを聴くことにしました。きっとお母さんの不満をどこにもぶつけられなかったのだろうな。ふと話しを聴いている内にこんな思いになりました。お母さんが少し落ち着いて来た頃を見計らって、これから通う療育センタ-は、A君にとってもお母さんにとっても安心して行ける所であり、特に相談員の○○先生は保育園の巡回訪問に何度も来て下さるとても信頼できる先生で「私は大好きだよ」と言わせてもらいました。


<結果>
 ある日、別件でセンタ-に電話をするとたまたま○○先生が電話口に出られました。要件が済みますと「A君、今日から来ていますよ。いろいろありがとうございました」とうれしい報告を聞くことができました。お母さんにとって思いもしなかった年長児の一言が事態を急展開させることになりましたが、A君のお母さんはこれから生涯をかけて障害を受容して行くことになります。


A君の家族が一生向き合う受容ということばの重みはその家族にしか分かりません。
今思えば、お母さんとの短かった一年は、ゆっくり、じっくり、その時を待つ一年だったと思います。




田倉 輝子 先生

(たくら てるこ 先生)
 
森幼児園 主任保育士

【経歴】
・横浜私立 青葉幼稚園
・池田市立 社会福祉施設 やまばと学園
・横浜市 認可保育所 森幼児園
・公益社団法人 神奈川学習障害教育研究協会 会員

障害児保育に携わること30年。
療育センターでの経験を活かし、森幼児園では統合保育を実践されております。



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2013.06.01
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