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「保育」のお役立ちコラム

忘れられないたった一言のセリフ(2月)

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 お遊戯会の練習が始まるこの時期になりますと、すでに卒園して数年が経っているA君のことを懐かしく思い出します。

A君は、入園するまでの1年間を地域療育センターの通園部に通いました。


 その後、A君は多数の施設を見学したものの、何処もA君を受け入れてくれる所がなく、療育センターから条件付きの保育でも良いので取り敢えずA君を受け入れて欲しいという要望がありました。午睡ができなかったA君には、しばらく降園時間を2時にしてもらい、園生活を過ごしてもらうことになりました。

 こうしてA君は、通園しながら言語や指先の訓練に療育センター以外の専門機関にも通うため、保育園を月に4回、早退したりと忙しい日々を送っていました。


A君が抱えている問題(入園当初)

□食べられるものは、豆腐、具が入らないラーメン・うどん・茶碗蒸し、銘柄が決まっているプリン・ゼリー・アイスクリーム・納豆に焼いたシャケしかありませんでした。昼食は、家からジャーに入れた白飯のみを持参し食べていました。給食は頑なに拒否するA君でしたが食べられる時を待ち強要はしませんでした。

□集団適応は難しく、やや多動なA君に椅子で囲いを作ってあげると自ら中に入り気に入りのおもちゃで遊ぶことができました。

□行動を制限されたり、A君のしていることに介入されることを嫌がり逃げようとしたり、不意に関わられたり、触られたりするのを嫌がりました。


A君の家族の問題

□父は仕事が忙しく、日々の子育ては母親任せでしたが土、日は、母に代わってA君の相手をよくしてくれました。A君の障がいを認めてはいましたが、常に子どもを定型発達児の集団の中で育てたいと思う気持ちが強いように思いました。

□母は、A君の置かれている現状を理解するもののいずれは追いついてくれるであろうと期待をし、それに向かっての努力は惜しみませんでした。また、A君は難しい子どもでしたので集団の中での生活は困難であり、入園を断られても仕方がないと思っていましたが、A君と向き合う時間が長く精神的に不安定な状態が続き通院をしていました。


初めてのお遊戯会

A君は、ウルトラマンが大好きでした。迷わずA君の踊る曲目は、「ウルトラマンダイナ」と決めました。ところがA君は、踊りにはまったく興味を示してくれませんでした。しかし、練習する友達のそばを離れることもなくA君自身、踊りに参加しているつもりになっているように思われました。練習も回を重ねる内に、友達が並ぶ列の端に椅子を置き、A君を誘い保育者がそばに付くことで座っていられるようになりました。やがて、A君は練習のたびに自ら椅子を持って友達の横に行き、曲が終わるまでみんなと場を共有することができるようにもなりました。


ある日の連絡帳から(母が書く連絡帳をそのまま記載)

2月15日(火)

昨日「ウルトラマンダイナした?」と聞いたら「しなかった」

「何でしないの?」「Aはコスモスが好きなんだよ」と言い訳をしてました。

本当は分かりません。

 

2月16日(水)

今日も「ウルトラマンの写真撮った?」「うん」

「ウルトラマンの服、着た?」と聞いたところ、まずいと思ったのか逃げて「着ないよー」と走ってしまいました。なので「おゆうぎ会の時は見せてね」「うん わかった」と言ってますが、分かりません。


 この年のお遊戯会は、練習通りA君は舞台に上がり友達の横で椅子に座っていることができました。母の望みであったウルトラマンの衣装を着ることはできませんでしたが「ウルトラマンダイナ」のお面を手に持って、写真に納まっているA君の姿は堂々としたものでした。それでも母の気持ちの中には、みんなと一緒にA君にウルトラマンの衣装を着せてあげたかったという思いがあったことでしょう。


 年長児になったA君は、一年の間に大好きなB子ちゃんをお手本にしながらたくさんのことを学びました。

ジャーに入れて自宅から運んで来る白飯は、園が提供する白飯に替り、給食に出される味噌汁・スープの具も少しずつ口にすることができるようになりました。そして、何よりも銘柄にこだわりがありましたヨーグルト・納豆等も園が提供するものでも受け入れられるまでに成長したA君でした。


父・母が書いた連絡帳から

カレーやヨーグルトが無事に食べられるようになってホっとしています。父

 

パルシステムで届く幼児用納豆、鮭フレークを用意した方がいいでしょうか。今までと変わらないので、特にいらないでしょうか。小学校に入学したら、それがあたり前なので持っていかない方がいいのかもしれませんね。母


 A君がみんなと一緒に給食を少しずつですが食べれるようになり、A君の成長を親御さんと喜び合いたいところでしたが「Aは、これしか食べれません」と家で使っている食器から母が作るカレーまでA君に持参させていたその母の仕事を奪ってしまったような錯覚に陥りました。


 どこまでも一生懸命な母は、どこかでA君を定型発達と照らし合わせていなければ安心できなかったのかも知れません。こんなに頑張っている母に対して、障がい名にこだわらずA君の良い点を見つめて欲しいと思いながらも掛ける言葉がありませんでした。


一年後のお遊戯会

 ウルトラマンの衣装を着せてあげたかったと思う母の願いは叶いませんでしたが、あれから一年が経ったA君の年長組でのお遊戯会は、ダンスにオペレッタと盛りだくさんのものがありました。A君のすごいところは、学習したことは力として蓄えられることでした。お遊戯会がどんなものなのか分かった上で練習をするA君は、昨年に比べると大きな成長が見られました。


「風をさがして」

 これは、A君が踊るダンスの曲目でアニメの「ワンピース」の主題歌でした。

この曲は、A君にとりましても身近でたいへん気に入っていました。練習中は友達の踊る様子を見ながら徐々にA君が、踊れるようになって行くのを実感することができました。A君の練習は、短時間で終わりにして明日に繋げることを大事にしました。また、友達との距離感がつかめず苦労していたA君には、立つ位置に色テープでマーキングをすることですぐに解決できました。同様にまっすぐ前に出て行くことが難しいA君には、隣の友達とぶつからないように白線を引いたところを歩くように指導することで隣と十分に感覚を開けて踊ることができるようになりました。


「ねずみの嫁入り」

 年長児は、園生活最後の集大成としてのオペレッタをお遊戯会で演じます。歌あり踊りありで練習も大変ですがA君もこれに挑戦してもらうことになりました。


 A君に人がねずみやおひさまの役になりセリフを言ったり踊ったりすることを理解してもらうために、絵本をあらかじめ何度も繰り返し読み聞かせました。当然のことですがこれは、A君だけではなくどの子ども達にとりましても分かりやすい導入になりました。練習中は、この話の内容に結び付けるために、それぞれの役のイメージに合うお面を被って演じてもらうことにしました。A君には、おひさまの役をやってもらうことにしました。被り物を嫌がるA君が果たして被ってくれるか心配しましたがみんなが被っているのでまったく抵抗することもありませんでした。反対に友達の被っているお面を見て「ねずみさん」「くもさん」「かぜさん」と話に出てくるストーリーを確認しているように見えました。クラスの中にも要配慮の子ども達が数名おりますが、このお面によって自分が何をするのかより理解することができた子どもがいたのではないでしょうか。


 次に、セリフです。A君のセリフは「それは くもさんです」と言うセリフでしたが、いつ何処で誰が言ったセリフの後にA君が言うのか理解できるようにおひさま役を二人にしました。「風をさがして」のダンスでも一緒に踊るC君はおひさまの出番になりますと、A君の手を引いて舞台中央までA君を誘導してくる練習を何度も繰り返しました。C君が「ぼくより強いものが もっといますよ」と言うと続いてA君が「それは くもさんです」と言うことになっています。


 本番まで残すところ数日となったある日のことでした。どうしてもA君のセリフが出てこなければ保育者が替りに言うことにすればいいことでしたがC君が言った後に言葉が続きません。私は、思わず「A君!A君の番だよ」と言いながら「それは くもさんです」と小声で伝えましたところ「ハイ そうです」とA君が答えてくれました。「分かっているなら言ってほしいなー」と思わず言ってしまいみんなで大笑いとなりましたがA君のお陰でその場の雰囲気は、何とも言えない温かさを感じました。こうして楽しく練習をする内に、本番までの数日の練習は終わりとなりました。


まとめ

 A君の一年目のお遊戯会は、残念ながら踊ることも衣装を着ることもできませんでした。しかし本番は、舞台に上がり椅子に座って最後までみんなと一緒にいることができました。「いやよ いやよ」と誘おうとする保育者から逃げ回っていたA君が、少しずつ友達を意識し、やがて場を共有することができるようになりました。


 一年後、年長組になったA君は、みんなと揃いの衣装で、お気に入りのダンス「風をさがして」を間違えることなく最後まで踊ることができました。

そしてプログラム最後のオペレッタでA君は、C君の言葉の後に続き「それは くもさんです」と誰の手も借りずに大きな声で言うことができました。誰もがこの瞬間を待ち望んでいましたが本番でA君は見事に期待に答えてくれました。

A君がいることによるプラスの面を出してあげる、見つけてあげることを大事にしてきたからこそ、たった一言のセリフが私たちに感動を与えてくれたのです。


 フランスの小説家サン・テグジュベリの代表作である「星の王子様」の中に“心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは目には見えないんだよ”という名言がありますが、この言葉の深い意味をA君との付き合いの中で教えてもらったような気がしました。




田倉 輝子 先生
(たくら てるこ 先生)
 
森幼児園 主任保育士

【経歴】
・横浜私立 青葉幼稚園
・池田市立 社会福祉施設 やまばと学園
・横浜市 認可保育所 森幼児園
・公益社団法人 神奈川学習障害教育研究協会 会員

障害児保育に携わること30年。
療育センターでの経験を活かし、森幼児園では統合保育を実践されております。


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2014.02.03
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