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「保育」のお役立ちコラム

人間作りの幼児期支援・音のない運動会がはじまった (10月)

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人間作りの幼児期支援・音のない運動会がはじまった


 今から9年前のことです。
日々当たり前にやっていることがある日を境に当たり前とは限らないこともあるということに気づかされ、2004年の秋の運動会は、常識を覆すそんな型破りな運動会となりました。思い切ってやってみました。そうなのです。音のない運動会を試みたのです。


 運動会には音楽がつきものです。BGMは定番の「天国と地獄」がより会場の雰囲気を盛り上げるのに一役買ってくれています。そう思って長い間、保育園の運動会のあり方を考えることはありませんでした。そんな私に一石を投じてくれた自閉症児のA君。A君にとっての運動会こそがまさに地獄だったのです。そんなA君の辛さに寄り添い、一生懸命A君が参加できる運動会はないものかと考えてくれた17名のクラスメ-ト。頭の固い大人には柔軟な心を持つ子ども達の力を借りることが一番の近道でした。結果、秋晴れの下で音のない運動会がスタ-トしました。こうでなければならない。昔からやっていることだから。と作り上げられた行事を覆すには勇気も要ります。しかし、やってみましたら案外簡単だったのです。


 初めにA君のことを少しお話します。A君は年中・年長の2年間、園に在籍しました。
一年目の運動会はかけっこのみの参加で終わりました。これからお話ししますのは年長児になったA君のことです。


A君の苦悩
 保育園の運動会は毎年10月に行われます。
練習は2学期が始まると同時に開始されますが、まずA君が乗り越えなければならないことはスピ-カ-から流れ出る音楽の大音響でした。練習が始まると部屋中に鳴り響く音にA君は、顔をしかめ両手で耳を押さえCDを止めて欲しいと大泣きをする毎日でした。当然のことですが練習どころではありません。


大好きなプ-ル遊びでも音が気になるのかな?
 初めのうちはどうしたら音に慣れてもらえるのか悩みました。水遊びが大好きなA君がプ-ルに入り好きなことをしていたら音が気にならないかも知れないとプ-ルサイドでCDをかけてみたりもしました。しかし、A君は音が鳴った瞬間プ-ルを飛び出しました。やはりA君にとってはスピ-カ-から流れ出る音は、我々が想像する以上に辛いものでした。


慣れてもらうことが大事ですか?
 A君には音に慣れてもらい我慢してもらうことばかりに重点を置いていました。
しかし、練習しても慣れないこともあるということがA君の苦しむ姿を見て少し分かったように思いました。苦しむA君を見ていると、いっそのこと音を無くしてあげた方がいいのかなと思うようにもなりました。しかし、運動会はA君一人のものではありません。園の一大イベントである運動会を一個人の考えで音をなくすという決定を出すわけにはいきません。それでもA君が参加できる運動会ができたらと思う気持ちはより強いものとなりました。


子ども達との話し合
 クラスの子供たちには音に苦しむA君のことがどのように映っているのか。
子ども達の思いを聴くことから始めました。A君は大きな音が苦手であること。このまま音を出して練習していても運動会の練習ができるようにはならないであろう。練習どころか運動会にも参加することが難しいのではと投げかけてみました。


 すると子ども達の中から「音を小さくしてみたら」と提案がありました。そこで音を小さくしてみました。それでもA君は耳を塞いで泣きました。それを見ていた他の子どもが「もっと小さくすれば」と言ってくれました。先ほどよりさらにボリュ-ムをしぼりましたがやはりA君は泣き止みません。次々に子ども達が立ち上がり「こうすれば」とプレ-ヤ-を部屋から廊下へ運び出してみる子がいたり、それでもダメだとなるとさらにプレ-ヤ-を二階から園庭まで運んでいく子どもも現れました。こうして話し合いをする中で子ども達は少しずつA君が参加できる運動会を考えようとしていました。いろいろと試してみたもののこれでよしというものが見つからず「やっぱりだめか」と肩を落とす子ども達でした。


 そこでもう一度「それでもA君と一緒に運動会に参加した方がいい?」と聞きますと「うん」とうなずく子ども達。その中に「A君はお家にいれば」という意見もありましたが「それでは淋しいよ」という子ども達が圧倒的に多かったことに年長児としての成長を感じました。


 続いて、B子ちゃんが「踊りは音がなければだめだけどすず割なんか音がなくても大丈夫だよ」こんな意見を言ってくれました。B子ちゃんの発言がきっかけで綱引き、かけっこ、親子競技、リレ-等々が音なしでできるとそれぞれの子ども達は、A君が参加できる運動会をしっかり考えてくれました。園にとりまして初めての音のない運動会になります。ただし、先ほども述べましたように運動会はみんなのものです。A君のためにみんなが我慢するだけではなくみんなでできるところは少しずつ譲り合う気持ちを大切にした運動会にしようと心掛けました。


職員会議で決めた事・その結果
 早速、職員間で話し合いを重ねた結果、ダンスだけは音を消すことができないということになり、ダンスは午後のプログラムに廻したりと大幅なプログラムの見直しをしながら午前の部の入場行進からBGMは一切使わないことにしました。もちろんかけっこ、つなひき、すず割の合図のピストルもすべて笛に変えました。


 運動会当日は、音楽がない午前の部は盛り上がりに欠けるであろうとあらかじめA君に受け入れてもらえることを確認しておいた唯一の楽器、タンブリンで職員がリズムを打ち子ども達がそれに合わせて手拍子を打って会場を盛り上げました。子ども達が入場すると同時に保護者の方も手拍子で子ども達を迎い入れて下さり、胸が熱くなりましたことは今でも忘れることができません。A君は残念ながらダンスには参加ができませんでしたが午前の部のすず割、かけっこ、綱引き、親子競技、全員参加のリレ-のすべてに参加することができました。


連絡帳の中から・・・・・母の思い
 A君が入園して以来ずっと毎日、A君が園でどのように過ごしたかを連絡帳に書いて家の方に読んでもらっていました。その都度、母親は必ず返信して下さったので結局、交換日記のようなものになりました。ある時、「光とともに」がテレビで放映されました。A君は音に敏感です。主人公である光もピストルの音が苦手です。A君の母親がもしこのテレビを見ていたとしましたら運動会についてどう考えているのかなと思いました。


※「光とともに」=「光とともに...-自閉症児を抱えて-」という日本系列で放映されたテレビドラマ
(サラリーマン家庭に生まれた光(ひかる)が自閉症であることが判明し、家族の葛藤や日常生活の大変さ、保育園から小学校の特別支援学級での生活を経て、中学校の特別支援学級へ進学した光の成長と新たなる問題などが描かれている。)


「光とともに」を見ましたか?と連絡帳に記す→母からの返信
2004年6月2日
「光とともに」見ましたよ。ゆっくり座っては見れないのですが何かやりながら見ています。運動会のかけっこで走り出すのを忍耐強く周囲の人が見守っていましたが、親としてはあの緊張は耐えられないかも・・・と思いました。もし走らなかったらどうしよう。みなさんに申し訳ないと思ってしまいます。


A君はスピ-カ-から流れる音に敏感で運動会の練習が難しいことを子ども達に話した日のことを連絡帳に記す→母からの返信
2004年7月28日
Aのことについてクラスのみんなが考えてくれて親としては感動します。先生やお友達のサポ-トを得てAも逃げてばかりいないで頑張ってくれるといいなと思います。
でも、現実は厳しいこともありますがこちらも協力しますのでよろしくお願いします。
昨日のお迎えの時にB子ちゃんが「A君は音楽が嫌いなんだよ」と教えてくれました。
運動会の話し合いのことだったんですね。


運動会の練習に参加をしたA君、体操の練習をする友達の傍で簡単な動作をしていた様子について連絡帳に記す→母からの返信
2004年8月20日
はとぽっぽ体操は体をゆすったりできるようになったんですね。少しずつ慣れてくれるといいと思います。自閉症の子は音の強弱のコントロ-ルが難しいらしく自分の声も適当な大きさがわからない子もいるそうです。Aがやたらと大きな奇声を出したりイライラして大声を上げたりするのもそのせいかなと思うこともあります。


繰り返し練習することが難しいA君には個別のメニュ-を作り練習することにしますと連絡帳に記す→母からの返信
2004年9月9日
Aの為に運動会をいろいろ工夫して頂いてありがとうございます。感謝いたします。
お友達も話し合ってくれてうれしいですね。すてきな運動会になりそうな気がします。


無事に運動会が終わった翌日の母からのコメント
2004年10月18日
いろいろとご配慮頂きありがとうございました。
「誓いのことば」はあのような内容とは知りませんでしたので驚き感動してしまいました。
親子競技もパラバル-ンも親子ともども楽しめましたし、綱引きは後ろ向きに引っ張ろうとするAや、手をバタバタさせて喜んでお友達と一緒にいるAを見て、とんちんかんなことをしていても昨年よりずいぶん成長したなあと実感しました。これも先生方とお友達のお陰です。ありがとうございました。


終わりに
 例外的な場面を受け入れる柔軟性が保育園の運動会のあり方を変えました。
音のない運動会は決して特別なことではなかったこと。
感覚過敏に苦しむA君に慣らすとか慣れてもらうことにだけ力を注いでもなんの解決にもならないということ。
それを教えてくれたのはA君と17名のクラスメ-トでした。
最優先と考えられる目的のために一つの決断を下し実行するには、クラスの子ども達や職員の同意、そして保護者の方々の理解がありましたことは言うまでもありません。
そして、9年前に子ども達から学んだことを無駄にすることのないよう日々研鑽していくことが私達の責務であると改めて思いました。




田倉 輝子 先生
(たくら てるこ 先生)
 
森幼児園 主任保育士

【経歴】
・横浜私立 青葉幼稚園
・池田市立 社会福祉施設 やまばと学園
・横浜市 認可保育所 森幼児園
・公益社団法人 神奈川学習障害教育研究協会 会員

障害児保育に携わること30年。
療育センターでの経験を活かし、森幼児園では統合保育を実践されております。



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2013.10.01
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