保育のコラム

公立保育園と私立保育園の保育士の待遇面(給料・福利厚生など)と働き方の違いとは?

2020/10/01

保育士の働き方について相談する

保育園には大きく分けて公立保育園と私立保育園があります。

公立保育園で働く保育士は、公務員保育士試験を突破した地方公務員で、私立保育園では学校法人やNPO法人に雇用された会社員です。

メディアなどの報道で、公立保育園の保育士は地方公務員のため、安定していて働きやすく、私立保育園の保育士は低賃金で過酷な労働が強いられるなどのイメージもあるようですが、はたして実態はどうなのでしょうか。

本記事では、公立保育園保育士と私立保育園保育士の気になる給与差の実態や、働き方の違い、産休や育休の取得、退職率、将来もらえる年金など、具体的にご紹介します。

“ずっと保育士編集部”

【記事監修】ずっと保育士編集部

「ずっと保育士」は、保育ひとすじ28年の株式会社明日香が運営する保育専門のキャリアサポートサービスです。結婚や出産、育児など、目まぐるしく変わるライフステージの中で、その時その時にぴったり合うお仕事を紹介したい。そして、保育の仕事でずっと輝き続けるあなたを応援したい、という想いで保育士の就職、転職、復職などのキャリア支援を行っています。また、「ずっと保育士」では保育士さんの疑問や悩みなどを少しでも解決すべくコラムを通した情報発信も積極的に行っています。

そもそも公立と私立の保育園の違いとは?

公立保育園と私立保育園の違いは、運営母体の違いです。

公立保育園は市区町村といった自治体が運営を行い、保育士はパートや非常勤、短期雇用以外の先生は地方公務員として、市区町村に雇用され、地方公務員に準じた待遇となります。

一方、私立保育園では、学校法人やNPO法人、保育事業を展開する民間企業が運営を行い、保育士は運営団体に雇用され、待遇は運営団体の基準によって違ってきます。

これらをまとめると、公立保育園と私立保育園の運営の特徴は、次の通りです。

表1:公立保育園と私立保育園の特徴の違い

 

特徴

公立保育園

各自治体で決められた保育計画に沿って、公立園間で差が出ないように運営。月案・週案などは、各自治体によって決められたカリキュラムに沿って提出。

私立保育園

保育指針を各私立保育園独自に定め、それぞれの方針に沿ったカリキュラムを運営。月案・週案などは、会議によって決定する。

公立保育園と私立保育園の保育士の働き方や待遇の違い

実際に、公立保育園と私立保育園の保育士では、働き方や待遇にどのような違いが発生するのでしょうか。

公立保育園で働く公務員保育士には、一般的に「給与・待遇が良く、安定している」イメージが強いですが、保育士の待遇改善が叫ばれる昨今では、私立保育園で働く保育士の待遇や働き方も大きく改善していると言えます。

ここからは、働く上で気になる給料や、福利厚生、仕事内容、退職金や年金制度、転職のしやすさなどのポイントを、私立保育園と公立保育園で比較してみていきましょう。

給料面(ボーナスなど)

厚生労働省が発表した「平成28年度賃金構造基本統計調査」によれば、公立保育園の保育士と私立保育園の保育士の平均給与を比較すると、年間で何と約230万円の違いがあります。

表2:公立保育園と私立保育園の保育士の給料面の違い

 

平均年齢

年収

月給

ボーナス

公立保育園

47歳

約555万円

約32万円

約148万円

私立保育園

36歳

約327万円

約22万円

約59万円

※参考元:厚生労働省「平成28年度賃金構造基本統計調査」

※参考元:東京都練馬区「令和2年度練馬区人事行政の運営等の状況の公表」

この表からもわかるように、平均年齢は10歳弱も公立保育園の保育士の方が高いです。

公立保育園で働く場合は定期昇給があるため、その分平均年収が上がった状態での比較になります。

補足をすると、そもそも公立保育園の保育士と私立保育園の保育士の初任給は、16〜17万円程度とさほど変わりません。

定期昇給の差が、現在の年収の差額になっているといえるでしょう。

もちろん、私立保育園でも昇給等はありますが、それぞれの運営団体の方針によるため、必ずしも定期的に昇給が望めるものではありません。

逆に、実力次第では私立保育園の方が給与が上回るケースもあります。

それは役職によるものです。

厚生労働省の発表する「幼稚園・保育所等の経営実態調査結果」によると、以下のような実態がわかります。

表3:公立保育園と私立保育園の役職者の給与の違い

 

施設長

主任保育士

保育士

保育補助者

公立保育園

(平均勤続年数)

約654万円

(33.6年)

約596万円

(28.2年)

約345万円

(11.8年)

約186万円

(3.9年)

私立保育園

(平均勤続年数)

約638万円

(24.1年)

約460万円

(21.1年)

約306万円

(8.5年)

約220万円

(4.1年)

※参考元:厚生労働省「幼稚園・保育園等の経営実態調査結果」

全体的に公立保育園の方が高く見えますが、保育補助者(無資格者)においては年収ベースで私立保育園の方が約35万円も高いことがわかります。

さらに、施設長においては平均勤続年数が10年弱も低いにもかかわらず、年収ではそれほどの差が出ていません。

実力によって評価される傾向のある私立保育園は、年収アップも実力次第で可能ともいえるでしょう。

つまり、一般的には公立保育園の保育士の方が給与が高いとされていますが、勤務年数や役職によってはその限りではないようです。

福利厚生面

公立保育園の保育士は地方公務員のため、福利厚生は完全に完備されていると言えるでしょう。

公立保育園の保育士は厚生年金や社会保険、健康保険、労災保険への加入はもちろん、産休や育休の取得は保証されていますし、給与面では、地方公務員としての定期昇給制度、賞与の制度があります。

一方、私立保育園の保育士はその運営団体によるため、一概には言えません。

私立保育園の経営状況や地域での相場などにより、千差万別です。

しかし、以前は社会保険制度未加入も多く、福利厚生制度もほとんどなかった私立保育園保育士も、今は保育士の待遇改善がなされてきています。

社会保険制度の加入はもちろん、産休や育休の取得にも積極的に努力をしている園もあります。

少なくではありますが、育休復帰率100%を誇る園も出てきており、保育士不足解消のために福利厚生面の改善はまだまだこれから期待できそうです。

保育士不足が深刻な社会問題になっている影響もあり、私立保育園保育士の待遇改善は社会全体で改善の動きが見られるようになっています。

仕事内容(働き方)

公立保育園は運営する各自治体が定めた保育指針によって運営されています。

保育内容は比較的保守的な内容が多く、現場の意見や新しいトレンドが取り入れられることはないかもしれません。

週案や月案などの提出も自治体のフォーマットに従ったものを作成するため、比較的書きやすいものと言われています。

公立保育園の保育士はおよそ3~4年の単位で異動が発生します。

ただし、別の保育所への配属になったとしても、同じ保育内容で運営されているため、引き継ぎや仕事の混乱は防げるでしょう。

新しい人間関係を数年ごとに構築し直すことにストレスを感じる方には、厳しい働き方かもしれません。

また、保育園は0歳児育児から含めると約6年間子どもをお預かりする場です。

せっかくの成長を途中で見ることができなくなるのは少し寂しいという心情的な辛さもあるでしょう。

私立保育園では、各園がそれぞれの保育指針を策定し運営しています。

キリスト教や仏教など、それぞれの思想信条を反映させた取り組みや、リトミックや体操、英語やアートなど、新しいトレンドも積極的に取り入れる園も多いです。

その分、週案や月案などは一から作成するなど、苦心して作成しなければならないことも多いようですが、保育士としてのスキルアップが期待できます。

異動は系列の保育園へ動くこともありますが、運営母体により、様々です。

ほとんどの場合、通勤事情等を考慮し、異動は活発ではありません。

勤務時間は公立保育園、私立保育園ともに7〜8時間のシフト制が多いようです。

ただし、私立保育園は人手不足も加わり、延長保育や早朝保育などのお手伝いなどで残業がある場合もあります。

また、お昼休憩なども、仕事量が多く、結局休めないなどの声もあったり、その評価は千差万別です。

一方で、公立保育園では、早朝、夕方保育に臨時職員の雇用をしているケースも多く、私立保育園に比べると人材の確保ができているため、私立保育園に比べて残業は少なめであると言えるでしょう。

このように働き方が優遇されていることが、公立保育園の方が私立保育園よりも良いと保育士の方々の中で言われている理由の1つです。

退職金や年金

公立保育園と私立保育園の退職金や年金についてはそれぞれ次のようになっています。

表4:公立保育園と私立保育園の退職金と年金制度の違い

 

退職金

年金

公立保育園

地方公務員と同額

共済年金

私立保育園

運営母体による

厚生年金・厚生年金基金

公立保育園の保育士は地方公務員のため、退職金、年金は各自治体の基準に沿って支払われます。

共済年金は通常厚生年金よりも高い額が支払われることが多いため、公立保育園での保育士は私立保育園の保育士より多くの年金を手にすることができます。

一方、私立保育園の保育士は退職金はその運営団体の方針によります。

退職金制度自体がない保育園も多いため、入社時には確認が必要です。

また、厚生年金と厚生年金基金の違いは、厚生年金は「公的年金」であるのに対し、厚生年金基金はいわゆる「企業年金」です。

厚生年金基金は設立のための条件があり、運営団体が設立をしているのであれば、加入が可能です。 通常であれば、企業年金は公的年金よりも高い額になることが多いため、厚生年金基金の加入者は厚生年金加入者より多くの年金を手にすることができます。

ただし、以前日本航空株式会社(JAL)などで問題になったように、企業年金はその運営団体の経営状態にも左右されることになります。

言い換えれば、私立保育園の保育士は普通の会社員と変わらないと言う事です。

転職

厚生労働省が2015年に立ち上げた「保育士等確保対策検討会」が発表する「保育士等に関する現状」によると、保育士の離職率は全体で10.3%とされています。(※1)

同じく厚生労働省が発表する「平成 28 年雇用動向調査結果の概況 」によると、国全体の離職率は15.0%であるため、保育士の離職率は国全体の平均よりはやや低めです。(※2)

しかし、私立保育園に勤務する保育士の離職率は12.0%と公立保育園の保育士の7.1%に比べ高いことが示されています。

さらに、勤続年数が14年以上の保育士の数は私立保育園の20.2%なのに対し、公立保育園では40.4%と2倍になっています。

このデータから、公立保育園は私立保育園に比べ退職者が少なく、勤続年数の長い保育士が多いことがわかります。

この理由は、保育士の離職理由からもその実態がわかります。

東京都が発表した「東京都保育士実態調査報告書」によれば、保育士の転職理由の上位は次のような理由となっています。

1位 「給与・賞与等の改善」・・・59.0%
2位 「職員数の増員」・・・40.4%
3位 「事務・雑務の軽減」・・・34.9%

つまり、給与や賞与への不満、人手不足による仕事量の増加などが挙げられています。

公立保育園では私立保育園に比べ、定期昇給や公務員としての待遇が確保されていることに加え、人員も十分に配置されていることが多いことが離職率の低さにつながっていると考えられます。

では離職した保育士はその後、どのような仕事についているのでしょうか。

前出の「保育士等に関する現状」によると、離職者3.3万人のうち、2.6万人は業界内での再就職とされています。

つまり、8割以上の方が保育士として業界内で働いていることになります。

私立保育園の中でも、給与・待遇が良かったり、満足な人員配置ができている職場があれば、園を移って就業しているケースが多々あるようです。

そして、2割の方は業界以外に転職しています。

保育士資格を持って活躍できるには保育園だけではありません。

保育士の資格を得るために学んだ知識や保育士としての経験は、子どもの成長を見守るあらゆる職種で活かすことができます。

>>保育士の資格が活かせる保育園以外の仕事の種類と就職先」の記事を見る

将来性の有無

少子高齢化や労働人口確保のため、女性の社会進出が求められる中、保育所の確保や保育士の活用はますます積極的に進むといわれています。

一方で国の政策である、公務員削減や社会福祉事業の民営化施策の影響で、保育所の民営化が自治体裁量にて進んでいます。

今後、公立保育園をなくす方針を定めた自治体も少なくはありません。

その結果、公立保育園の保育士は将来も安泰というわけではありません。

公立の保育園が全て撤廃された後、公立の児童福祉施設などに空きがあればその施設への配属もありますが、配属が不可能な場合は、別の職種への転属が求められるでしょう。

その場合、公務員の立場は守られますが、保育士の仕事とは全く別の仕事となることを避けることはできません。

私立保育園の保育士については、保育所不足の解消に向けて新設される園や今後公設民営化された保育園などでの活躍が求められます。

保育士不足の解消のため、待遇改善も国によって積極的に支援されていますので、今後働く環境、待遇等も良好になっていく可能性が高いです。

公立保育園と私立保育園の保育士はどちらの方が良い?

公立保育園と私立保育園の保育士のどちらが良いということはありません。

どちらの園で就業したとしても「保育」の仕事自体には変わりはないのです。

もちろん、公立保育園は、給与・待遇面から非常に続けやすく、勤務しやすい環境と言えるでしょう。

「公務員」という安定性や肩書きには、安心感もあります。

一方で、せっかく難関の公務員保育士試験を突破しても、今後なくなるかもしれないリスクがあることや、自治体に決められたルールの中でしか保育ができないという、裁量の狭さも考えなければならない大切なポイントです。

私立保育園では、現状では給与・待遇面に多少の不安はありますが、待遇改善に向けて今、まさに動いているところです。

産休・育休だけでなく、短時間勤務やライフスタイルに合わせた雇用形態など、私立保育園における今後の見通しは明るいです。

保育園独自の保育方針や柔軟な対応ができるということから、保育士としての理想を実現できる可能性も公立保育園の保育士に比べて高く、やりがいは大きいかもしれません。

社会全体でも、ライフスタイルや仕事に対する考え方は変化しているので、必ずしも「公務員」が安心できるという環境ではなくなっています。

そのため公立保育園だから、私立保育園だからという選び方ではなく、あくまでも自分にあった働き方や、保育士としての実力が発揮できそうな園を選ぶことが大切です。

こんな人は公立保育園がおすすめ

公立保育園の保育士は公務員です。

公務員保育士試験に合格すれば、余程のことがない限り、年功序列で給与は上がっていきます。

最終的に公立の保育園がなくなったとしても、その雇用自体は確保されますし、退職金、年金など将来にわたっての安定性は間違いありません。

公立保育園の保育士には転勤がおよそ3〜4年に一度あります。

せっかく慣れてきた職場を離れて、新しい環境にすぐに適応できる人の方が良いでしょう。

確実な安定性を求める方は、公立保育園がおすすめです。

ただし、公立保育園の保育士になるためには、公務員保育士試験に合格する必要があります。

この公務員保育士試験は倍率も高く狭き門のため、場合によっては、就職浪人をする人もいます。

公務員保育士として働きたいという強い思いを持って、コツコツと勉強できる人が向いているでしょう。

こんな人は私立保育園がおすすめ

私立保育園は独自の保育指針に従って運営されています。

中にはリトミックや英語、ダンスやアートなど様々な特徴を持ったカリキュラムを取り入れた私立保育園もあります。

新しい体験や最新の保育を通じて、保育士としてのスキルを上げていくことができるのが私立保育園で働く最大のメリットと言えます。

また、私立保育園の場合、公立保育園と比べて異動があまりない事も特徴の一つです。

一度打ち解けてしまえば、職員同士がチームワークを発揮し、一丸となって仕事に取り組めるというのも私立保育園の保育士ならではです。

0歳で入園したお子さんの卒園まで見届けることもでき、保護者とともに成長を共有できることも、魅力です。

私立保育園の保育士になるためには、採用試験はあるものの、公務員保育士試験を受ける必要はありません。

採用までに長い試験勉強期間や、配属までの順番待ちなどの手続きを経ることなく、ご自身で「この園で働きたい!」と思ったら、すぐに応募して思いを伝えることができるのも良いところです。

給与・待遇について、公務員に比べるとどうしても劣って見えてしまいがちですが、やりがいや保育の多様性を重視する方は、私立保育園がおすすめです。

公立・私立にとらわれず自分らしい働き方ができる職場を選ぼう

現状では、給与・待遇や働き方などにおいて、公立保育園の保育士の方が良い、というイメージがあった方も多いのではないでしょうか。

また、報道やメディアからの情報で、私立保育園の保育士は待遇が悪く、離職率が高いなどの悪いイメージが先行していることもあります。

しかし、実際には保育士待遇改善の波を受け、今後の可能性や仕事の内容といったところでは、必ずしも公立保育園が私立保育園よりも良いというわけではない、ということがわかります。

保育士として、どのように働きたいのか、何を求めているのかを明確にし、公立保育園・私立保育園といった概念にとらわれず、自分にあった働き場所を見つけていくことが大切です。

※1:参考元:厚生労働省「保育士等確保対策検討会」第3回公開資料「保育士等に関する現状」

※2:参考元:厚生労働省「平成 28 年雇用動向調査結果の概況 」

 

保育士求人_記事下バナー

 

カテゴリ
保育士キャリア
保育士・幼稚園教諭・ベビーシッターの求人専門サービス「ずっと保育士」